ワインの科学

ワインの樽と風味

ワインと樽の密接な関係

ワインと樽が運命的な出会いを果たしたのは、今からおよそ2000年前。

古代の人はそれまで陶器でワインを保存していましたが、この陶器は重く、そして壊れやすいという短所がありました。そのため、軽くて丈夫な木樽でワインを保管するようになったのでしょう。

まさか、ワイン香りやを木樽で保存することによりワインに好ましい風味がもたらされるとは、使い始めた当時はつゆとも思っていなかったに違いありません。

現在、多くのワイン生産者がワインを樽で熟成させるという方法を採用しています。これは、樽で熟成することによりワインに好ましい香りや風味が付与されるからです。

樽の種類や大きさ、新旧、トースト具合などが違うと、出来上がるワインの風味は大きく異なってきます。

そのためワイン生産者は、ぶどうと同じくらい樽の選定に気を使っているのです。

樽の種類による風味の変化

ひとえに樽と言っても、その種類や大きさ、新旧によってワインに与える影響は大きく異なっていきます。

樽の種類

ワインの樽は、コナラ属に分類されるオークで作られます。オークは頑丈でありながら加工しやすく、きちんと加工すれば液漏れを起こさないため、古来から樽材として使用されてきました。

オークにはフレンチオークとアメリカンオークの二種類が存在します。

フレンチオークは、その名の通りフランスで生産されるオークの総称であり、ヨーロッパナラとツクバネガシと呼ばれる樹木が該当します。フレンチオークから作られた樽はポリフェノール含有量が多いため、ワイン中にポリフェノール分が溶け出しワインにストラクチャーを与えます。逆に香り成分は少ないため、ワインの香りに与える影響はアメリカンオークに比べて控えめです。

アメリカンオークは、その名の通りアメリカで生産されるオークの総称であり、ホワイトオークと呼ばれる樹木が該当します。アメリカンオークで作られた樽は香り成分の含有量が多いため、ワインに特徴的な香りを与えます。

アメリカンオークには、オークラクトンと呼ばれる香り成分が特に多く存在しており、アメリカンオークで熟成したワインからココナッツのような香りが強く感じられることが多いです。

トースティング

オークは伐採された後樽板に加工されたのち、トースティングと呼ばれる樽板を火で炙って樽の形に曲げられる作業が行われます。このトースティングの程度によって樽板の化学成分が変化し、ワインに与える影響も異なってきます。

樽のトーストが強いと、すなわち樽表面の焼き加減が大きいと、グヤアルコールと呼ばれる物質の含有量が増えます。このグヤアルコールは炭などのスモーキーな香りを放つことが知られているため、トーストの強い樽で熟成したワインからはスモーキーな香りを感じることが多いです。

樽のトーストが強いと、クローブのような香りを放つオイゲノールも増加するとの報告もあります。

また樽のトーストを強くすることによって減少する化学物質もあります。

バニラのような香りを放つバニリンが代表的です。バニリンはオークに多く含まれる香り物質ですが、トーストを強くすることで含有量が経ることが知られています。

そのためトーストが弱い樽で熟成したワインからバニラのような香りをよく感じますが、トーストが強い樽で熟成したワインはバニラ香は控えめであることが多いです。

樽の新旧

ワインの樽は、一回ワイン使われて終わりではなく、再利用されることもあります。

ワインの醸造や熟成に使われたことのない樽は新樽、何年もワインの醸造や熟成に使用されている樽は古樽と呼ばれます。

樽は、使用された年月が長いほどワインに溶け込む成分が少なくなることが知られています。

そのため、新樽からはポリフェノールなどの樽からの成分がワインに多く溶け込みたる由来の風味を強く感じますが、古樽になればなるほど樽からの成分の溶け込みが少なくなり樽の風味が弱くなっていきます。

ワインのテクニカルシートによく新樽比率が記載されているのは、このような樽の新旧が風味に与える影響を教えるためです。

さて、樽の風味がほとんどつかない古樽でワインの熟成を行うのはなぜでしょうか。

樽は、わずかではありますが酸素を通します。樽を通じて流入してくるわずかな酸素はワインと反応し、青臭い香りを減らしたり、ワインの色を鮮やかにしたり、タンニンを和らげたりと、ワインの風味やストラクチャーに良い影響を与えます

この極めてゆっくり進む好ましい酸化反応のため、ワインの熟成に木樽を採用する生産者が多いのです。

樽の大きさ

樽は様々の大きさのものが作られています。

225リットルのワインが入るボルドースタイルの樽(バリック)や、228リットルのワインが入るブルゴーニュスタイルの樽(ピエス)などが有名ですが、1000リットル以上入る大きな木樽でワインの熟成を行っている生産者もいます。

一般的に、樽のサイズが大きいほど樽の風味は付きづらくなります。これは、樽が大きくなるにつれ、単位体積あたりのワインが木樽と接触する面積が小さくなるからです。

樽との表面積が小さくなるほど樽からの成分の溶融が少なくなるため、樽由来の風味を抑えることができます。

以上のように、樽は様々な形でワインの風味に影響を与えています。ワインの香りから、このワインは樽をどのように使ったのだろうか、そのようにした醸造家の意図とはなんだろうかなどと、樽の風味を通じてそのワインが作られた時間と空間に思いを馳せるのもワインを味わう上での醍醐味です。

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