問1
産地ごとのワインのスタイルを評価するに当たって, 各産地における気候を考えることは重要である。緯度や標高, 寒流の存在など, 気候を左右する要因は様々あるが, 教科書ではあまり取り上げられていない気候を左右する大きな要因の一つとして, 沿岸湧昇が挙げられる。
沿岸湧昇に関する以下の問いに答えよ。
Part 1
地球は自転しているため, マクロスケールで地球上の物質の運動を考える場合は, 自転による加速度を加味する必要がある。
緯度\phiにおいて, 地球に相対的な速度uで東に向かって動いている物体の運動を考える。回転している地球からその物体を見ると, この物体単位質量あたりにはたらく求心力は
F_{rot} = \frac{u^2}{R \cos \phi}
と表されるが, 慣性座標系から見た真の求心力は
F_{int} = \frac{ \left(\Omega R \cos \phi + u \right)^2}{R \cos \phi}
と表される。ここでRは地球の半径であり, \Omegaは自転の角速度である。F_{int}とF_{rot}との差に現れるuに比例する項(これはコリオリの力と呼ばれる)を答え, その項から導かれる緯度\phiにおいて速度uで動く物体に加わる地表面に対して水平方向の力を求めよ。ただし, 地球は完全な球形としてよい。
答え
解答
F_{int}を展開すると,
F_{int} = \Omega ^ 2 R \cos \phi + 2 \Omega u + \frac{u^2}{R \cos \phi}
と表せる。これはつまり, 実際に働いている力F_{int}は, 回転している地球から見た求心力F_{rot}と, 見かけ上の外向きの力である\Omega ^ 2 R \cos \phiと2 \Omega uの合力であるということである。\Omega ^ 2 R \cos \phiが遠心力と呼ばれる力であり, 2 \Omega uがコリオリの力と呼ばれる力である。
また水平方向にはたらく力は, コリオリの力を地球の接線方向に分解し, 2 \Omega u \sin \phi と求められる。つまり, 地球上で運動する物体全ては, 見かけ上の直角右向きの力(南半球では左向きの力)2 \Omega u \sin \phi を受ける。
Part 2 (難)
コリオリの力がはたらいている場合の海水の運動方程式を考える。海水は定常であり, 圧力傾度がないとすると, 海水の運動はコリオリ項と鉛直粘性項の釣り合いのみを考えれば良いので, zを鉛直方向(上を正)にとった海水の運動方程式は以下の通りに表せる。
-fv = \nu \frac{d^2 u}{d z^2}
fu = \nu \frac{d^2 v}{d z^2}
ここで, u, vはそれぞれx, y方向の速度, fはコリオリパラメータ\left( f = 2 \Omega \sin \phi \right), \nuは鉛直渦動粘性係数(定数とした)である。今, 表層の風などにより海面(z=0)においてy方向に一様な力\tauが加わっており, その他の外力が無視できる時, 海面(z=0)での境界条件は以下の通りに表せる。
\rho \nu \frac{d u}{d z} = 0
\rho \nu \frac{d v}{d z} = \tau
また, 無限に深い場所では表層に加わっている力の影響が0になると考えると, z \rightarrow -\inftyではu=v=0となることがわかる。
境界条件に留意しつつこの微分方程式を解き, u, vの鉛直プロファイルを説明せよ。また, u, vを鉛直方向に積分することにより, 海面に力\tauが加わった際の正味の海水の流量及び輸送方向を求めよ。
ヒント:V=u+viとおき, Vについての二階常微分方程式を作れ。
答え
解答
V=u+viとおき海水の運動方程式を変形すると,
\frac{d^2 V}{d z^2} – \frac{f}{\nu} i V = 0
となる。この微分方程式の特性方程式は,
\lambda^2 – \frac{f}{\nu} i = 0
となるので, \sqrt{i} = \pm \frac{1}{2} \left( 1 + i \right)であることに注意すれば,
\lambda = \pm \sqrt{ \frac{f}{2\nu}} \left( 1 + i \right)
となるので, 微分方程式の一般解は, \delta = \sqrt{ \frac{2\nu}{f}}とおき, z\rightarrow -\inftyの境界条件に注意して解くと以下の通りになる。
V = C e^{ \left( 1+i \right) \frac{z}{\delta}}
ここで, 定数Cを求めるために, z=0での運動方程式を変形すると,
\frac{d V}{d z} = \frac{\tau}{\rho \nu}i
となる。求めた一般解の微分を代入すると, Cは以下の通りになるので,
C = \frac{\left(1+i\right) \tau \delta}{2\rho\nu}
1+i = \sqrt{2} e^{i\frac{\pi}{4}}であることに注意して変形すると, 海水の運動は以下の通りに表せる。
V = \frac{\tau \delta}{\sqrt{2} \rho \nu} e^{\frac{z}{\delta}} e^{i \left( \frac{z}{\delta} + \frac{\pi}{4} \right)}
このままでは運動の様子が分かりづらいので, 定数項をV_s = \frac{\tau \delta}{\sqrt{2} \rho \nu}とおき(これは海面での海水の速度に値する), 実部と虚部に注意しながらVをuとvに分解すると,
u = -V_{s} e^{\frac{z}{\delta}} \sin \left( \frac{z}{\delta} – \frac{\pi}{4} \right)
v = V_{s} e^{\frac{z}{\delta}} \cos \left( \frac{z}{\delta} – \frac{\pi}{4} \right)
となる。
次に, u, vを鉛直方向に積分し, 正味の海水の流量及び輸送方向を考える。
\int_{-\infty}^{0}u dz = U, \int_{-\infty}^{0}v dz = Vとおき, 部分積分を実行すると, それぞれ以下の通りになる。
U=\frac{\tau}{\rho f}
V = 0
このことから, コリオリの力を加味した場合, 海面に力\tauが加わった際, 海水は北半球では風の向きに対して直角右向きに輸送されることがわかる。
以上の解説をまとめると, 北半球では海上に風が吹くと, 表層の海水は風の向きから直角右向きに輸送されるということである。これをエクマン輸送と呼ぶ。
Part 3
北アメリカ西岸は夏季に太平洋高気圧が卓越し, 逆に大陸部では低気圧が卓越する。この気圧配置がなぜ沿岸湧昇を生じさせ, 北アメリカ西岸の気温を下げうるのか説明せよ。
答え
解答
海洋には太平高揚気圧, 大陸部には低気圧が存在するため, 北アメリカ西岸では北寄りの風が卓越する。この北寄りの風により, 北アメリカ西岸の表層水は沖へと輸送される(エクマン輸送)。それを補うように, 深層から冷たい海水が湧昇するため(沿岸湧昇), 北アメリカ西岸の海水温は低くなる。北アメリカ西岸の低い海水温により, 北アメリカ西岸の気温は低くなっている。

以上のように, 夏季のカリフォルニア海岸は, 沿岸湧昇により気温が低下する。これは, 北アメリカ西岸沖では夏季に北風が卓越し, その北風がエクマン輸送により表層の海水を沖へ持ち運び, それを補うように低温の深層水が湧昇するからである。カリフォルニアの気候を冷涼化しているのは, 寒流の影響もあるが, 沿岸湧昇によるところも大きい。
カリフォルニアがブドウの栽培に適した気候でいられるのは, この沿岸湧昇によるところも大きいのである。
深層の水は栄養塩が豊富であるため, その深層水が湧昇するカリフォルニア沿岸はとても良い漁場となっているのは有名な話である。しかし, 沿岸湧昇は海の生物のみならずブドウにも恩恵を与えているのである。
参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjasnaoe1968/1991/170/1991_170_379/_pdf
http://mepl1.riam.kyushu-u.ac.jp/~isobe/lectures/poI/ekman/ekman.html
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