ワインの涙
ワインの涙とは
ワインのテイスティングを行っていると、"ワインの涙"という単語を聞く機会があると思います。
ロマンティックな言葉ですが、残念ながらワインは人ではありませんので涙は流せません。
このテイスティングでよく使われる"ワインの涙"とは一体何を指しているのでしょうか。
ワインの涙とは、ワインの液面付近のグラスの側面に作られる、絶えず滴る液滴のことです。
グラスの側面を滴る液滴が涙のように見えたため、このようなロマンチックな名前がつけられました。ワインの涙は、"ワインの足"や"教会の窓"などとも呼ばれます。
とはいえ百聞は一見に如かずですので、実際のワインの涙を撮影した動画をご覧ください。
この、グラス側面から液面に絶えず滴るしずくが「ワインの涙」です。
ワインの涙は、何を意味するのでしょうか。
よく、ワインの涙がはっきり見えるワインは高品質である、などと言われることがあります。また、ワインの粘性が高いからワインの涙がはっきりと形成される、なども言われることがあります。
しかし、これらの迷信はすべて誤りです。
ワインの涙は品質の高低を意味しませんし、ワインの涙は粘度によってもたらされるものではありません。ワインの涙は、そのワインのアルコール度数の高さを示すだけです。
ワインの涙の成因
ワインの涙がどのように形成されるか見ていきましょう。
ワインの涙は、マランゴニ効果と呼ばれる物理現象によって形成されます。
マランゴニ効果とは、液体の表面張力の局所的な差異に起因した、液体の表面移動現象のことです。表面に広がっている液体に、表面張力の低い箇所と高い箇所が局在している場合、表面張力の低い方から表面張力の高い方へ液体の移動が生じます。
ワインは、酸や糖、ポリフェノールなどが含まれているとはいえ、大部分はエタノールと水の混合物です。
エタノールは水より表面張力が弱いことが知られていますので、ワイン中にエタノール濃度が局所的に低い場所があると、その場所の表面張力は高くなります。その結果、エタノールに濃度差があるとマランゴニ効果により溶液の移動が生じます。
このマランゴニ効果により、ワインの涙はどのように形成されるのでしょうか。
ワインをグラスにそそぐと、毛細管現象によりグラスに接しているワインの液面はグラスにそってわずかに上昇します。ワインはエタノールと水の混合物なので、絶えず表面から水やエタノールが蒸発します。エタノールは、ワインのディスク表面より、毛細管現象により上昇した液体の表面からわずかにはやく蒸発することが知られています。このため、上昇した液体とワイン本体でエタノールの濃度差が生じます(①)。
毛細管現象により上昇した液体はエタノール濃度が低くなるため、表面張力が強くなります。これは、水がエタノールより表面張力が強いことに起因します。ディスク表面より上昇した液面の方が表面張力が強いため、マランゴニ効果によりグラスを遡る液体の上昇流が生じます(②)。上昇した液体は集まり、やがて重力に逆えない大きさになり、滴となってグラスの側面を滴り落ちてゆきます(③)。これがワインの涙の正体です。
マランゴニ対流は基本的にはエタノールの蒸発がなくなるまでずっと止まりませんので、ワインの涙は絶えず作られては滴ってを繰り返すのです。
まとめ
上述の通り、ワインの涙が形成されるかどうかは主にアルコール度数のみによって決定されます。
アルコール度数の高いワインだと、マランゴニ効果によりグラス側面をワイン液が上昇し、やがて大きくなりワインの涙として落下してゆくのです。
アルコール度数の低いワインだと、グラス側面を上昇した液体との濃度差が小さくなってしまうので、マランゴニ効果の寄与が小さくなり、涙を形成できるほどの上昇流が生じません。
また、ワインの涙はグラスによても見え方が変わってきます。グラスによってはワインのアルコール度数が高くてもワインの涙が見えない場合もあります。
絶えず滴ってゆくしずくを見るのも、ワインの醍醐味です。アルコール度数の高いワインを飲む機会があればぜひご覧ください。
Barbeito Madeira wine sweet
今回は酒精強化ワイン、マデイラです。マデイラは、ポルトガルのマデイラ島で生産されるポートワインとシェリーと並ぶ世界三大酒精強化ワインの一つです。マデイラは意図的に加熱し酸化熟成をさせ、ナッツなどの風味が強く感じられます。
スワリングすると、すぐにはっきりとしたワインの脚が見えます。脚はゆっくりと流れてゆき、液面近くに達するときれいなワインの涙を見ることができます。
ローストアーモンド、焚き火などの酸化熟成を感じさせる香りに、カラメルや黒糖など甘く濃厚な香りが折り重なります。深みがある独特の香りです。味わいはファーストタッチから仄かな苦味を伴った豊かな甘さを感じます。アルコールのボリューム感はしっかりとあるものの、口当たりはさらっとしており軽さを感じます。優しい酸が全体をきゅっと引き締め、ビターで上品な余韻を残します。