香りの表現と比喩
ワインの香りは直喩で表現する
ソムリエ・ワインエキスパート二次試験では、香りは主に直喩で表現します。
この「直喩で表現する」とはどのようなことかというと、ワインの香りをワインと全く別の物質を引き合いに出して表現するということです。
ソムリエ・ワインエキスパート二次試験では、ワインの香りの表現を行うために、比喩として使うべき様々な物質が予め列挙されています。その中には、柑橘類などの香りの想像をしやすいものから、石灰や貝殻など一見どのような匂いを放つのかわからないものまで並んでいます。
ワインのテイスティングの際は、これらの特徴的な香りを表す様々な物質からそのワインの香りを表すと思われるものをいくつか選び、ワインの香りを組み立て表現するという作業を行います。
ワインはなぜこのような比喩表現が多用されるのでしょうか。
これはおそらく、ワインの香りを表現する形容詞がごく限られているということが挙げられると思います。
星の数ほどあるワインそれぞれの香りの違いを表現するには、我々が普段使用している言語の形容詞では少なすぎます。我々が経験した無二のワインの香りを表現するには、様々な物質を比喩として引き合いに出し香りを組み立て表現する、という作業が必要なのです。
そのためワインのテイスティングは、その微妙な特徴を細かく表現するために、独特で、時には難解な様々な比喩表現で溢れているのです。
テイスティングコメントの歴史
ここで寄り道して、ワインのテイスティングコメントの歴史を見ていきましょう。
ワインを形容詞で表現するという作業は、すでに古代エジプトの頃から行われていました。古代エジプト時代でもワインは多く作られていたため、それらを区別するための表現が必要だったのです。しかしワインに用いられた形容詞は、数多く存在していたワインを大雑把に区別するためのごく簡単なものしかありませんでした。
文化が洗練されてきた古代ギリシャの時代では、ワインを味わった際の知覚経験を言語化するという作業も盛んに行われるようになりました。我々が普段何気なく目にするワインのテイスティングコメントですが、実は古代ギリシャの時代からどうようにあったのです。この時代にワインを表現する多様な言葉が生まれましたが、その際の言葉の多くは感覚的な形容詞であり、現在よく使われているような直喩表現はあまり使用されませんでした。
ワインの知覚経験を形容詞で表現する傾向は、ごく最近、19世紀後半になるまでずっと踏襲され続けました。
ワインの表現方法が変化する一つのきっかけになったのが、アロマホイールの登場です。
アロマホイールとは、ワインの香りを表す具体的な果物などの用語を円状に並べたものです。アロマホイールは、ワインの複雑な匂いを感じ取り言語化するのを助ける目的で開発されました。このアロマホイールの登場により、ワインを直喩で表現することが盛んになり、それによりワインをより客観的に、そして難しい形容詞を使わずともみんなが共有できる形で表現できるようになりました。
そしてこのようにワインを客観的に表現することが盛んになり、香りの科学もめざましく発展していきました。
このように、ワインの知覚表現は歴史とともに形容詞から比喩表現へと進化していったのです。私達が普段使っている何気ないワインの知覚表現は、実はこのような長い歴史を経て発展してきたものなのです。
比喩として使われる香り物質
上述のように、現代ではワインの香りの表現を行う際、客観性を担保するために、様々な香り物質を引き合いに出し直喩で表現されることがほとんどです。
ここで重要な点は、アロマホイールなどに代表されるワインを表現するために用意された単語は、"比喩"として使用されるということです。
これはどういうことでしょうか。
白ワインの香りを表現する際に、「すいかずら」という単語がよく使用されます。しかし、実際にすいかずらの香りを嗅いだことがある人は少ないのではないでしょうか。ところが、すいかずらの匂いを実際に嗅いだことがない人でも、白ワインの香りを「すいかずら」と表現したりするのです。
この「すいかずら」という単語は、ワインに花のような香りが仄かに感じられた際によく使用されます。「すいかずら」という単語がテイスティングコメントに使用されることによって、説明される側の人は、このワインは甘く華やかな香りというよりは繊細で上品な香りなのかなと受け取ることができます。
つまり「すいかずら」は、実際にすいかずらの香りがすると言うよりは、フローラルな香りを仄かに感じるワインに使用される比喩表現にほかならないのです。
ワインの知覚経験を表現する様々な用語も、客観的に受け入れられるように、比喩表現としてある決まった使われ方をされるのが一般的です。
このサイトでは、ワイン業界で広く受け入れられている比喩表現のルールを紹介していこうと思います。
Kendall Jackson Vintner's Reserve Cabernet Sauvignon
アメリカ、ソノマ・カウンティのカベルネ・ソーヴィニヨンの香りを、直喩で表現してみましょう。
グラスに鼻を近づけると、早々に清涼感のある青い香りを感じます。このような植物やハーブ様の香りは、杉やメントールなどと表現されることが多いです。そして香りのボディを作っているのが、熟度を感じさせる果実の香りです。深みのある黒系果実の香りを例えるなら、コンポートしたブラックベリーやブルーベリーです。そして時間とともに浮き上がってくるのが、鼻を心地よく刺激するエキゾチックな香りです。刺激的なスパイスと仄かに甘やかなスパイスの二種類の香りが感じられ、それぞれクローブ、バニラなどと表現されることが多いです。
アタックはスムースでなめらかです。甘さを感じるジューシーで肉厚な果実感は、優しい酸と強かなタンニンに支えられエレガントにまとめ上げられています。香り要素に富む上品な一本です。
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