菩提樹の香り
菩提樹とは
「菩提樹」とは、リンデンとも呼ばれるシナノキ属の落葉樹で、釈迦が悟りを開いた樹として有名です。
菩提樹は、6,7月にクリーム色の小さな花を咲かせ、甘くフローラルな香りを振りまきます。ワインのテイスティングにおける「菩提樹」とは、この「リンデンブロッサム」の香りのことを指します。
「菩提樹」は、甘く官能的な鼻の香りを表す単語として使用されます。リースリングによく用いられるテイスティングコメントです。
菩提樹の香りの正体
菩提樹の香りは、ホトリエノールという化学物質に由来します。このホトリエノールという物質は、モノテルペン類に属します。
モノテルペンとは、アロマティック品種に多く含まれる香り物質であり、強く特徴的な香りを放ちます。リースリングはもちろん、アロマティック品種であるマスカットやゲヴェルツトラミネールにも豊富に含まれています。
モノテルペンに含まれるホトリエノールはリースリングに多く含まれているため、甘く官能的な菩提樹の香りを放ちます。またホトリエノールは、ゲヴェルツトラミネールにも存在していると報告されています。そのため、ゲヴェルツトラミネールからも菩提樹の香りが感じられることがあります。
菩提樹の香りはペトロール?
誤解されている方が多いのですが、「菩提樹」の香りは「ペトロール香」ではありません。
「菩提樹」も「ペトロール香」も、どちらもリースリングに特徴的な香りなので、知らず知らずのうちに混同されるようになってしまったのでしょうが、両者は実際の香りも、香りの由来となる化学物質も全く異なります。
ペトロール香とは?
「ペトロール香」とは、灯油のような香りのことを指します。灯油やガソリンの香りを吸ったことがある方は、その強烈な香りの印象を忘れることはないと思います。
「ペトロール香」と言われてどのような香りか想像がわかない方は、こちらのキューピーちゃん人形でペトロール香を覚えるとよいです。キューピーちゃん人形からはしっかりとしたペトロールを感じることができますし、ワインスクールなどでもよく使用されています。
「ペトロール香」は、ワインの欠点であると言われることもあります。個人的には好きな香りなのですが、強すぎる化学物質臭はやはり賛否両論あるのでしょう。
そのため、ソムリエ・ワインエキスパートの二次試験において、この「ペトロール香」に対応する香り物質は記載されていません。
ペトロールの由来
このペトロール香の由来は、トリメチルジヒドロナフタレン(通称TDN)と呼ばれる物質であることが知られています。
このTDNは、ワインに使用されるぶどうで普遍的に見られる物質なのですが、リースリングはこのTDNの含有量がずば抜けて高いです。
TDNは、ワインの香り物質の中でも最もよく研究されている物質のうちの一つです。
TDNは、温暖な地域ほどぶどうに多く蓄積されることがわかっています。そのため、オーストラリアなどの温暖な地域で作られたリースリングは、ペトロール香が強い傾向にあります。
また、TDNはワインボトルを封じるコルクに吸収されることが知られています。そのため、コルク栓のワインよりスクリューキャップ栓のワインのほうがペトロール香を強く感じることが多いです。
近年は、ペトロール香を嫌う生産者が増えてきていたり、人類のTDNについての知識が蓄積されどのようにすればペトロール香を抑えられるかという技術が発達したため、ペトロール香をほとんど感じないリースリングも珍しくありません。
しかし、ペトロール香はリースリングを見分ける貴重な手がかりであることは間違いありません。
そして自分はペトロールの官能的な香りはとても好きですので、ぜひ皆さんにも感じていただきたいです。
Trimbach Riesling
フランス、アルザス地方のリースリングです。アルザスのリースリングは、しっかりと菩提樹の香りやペトロール香を感じるものが多い印象です。
外観はやや淡めのレモンイエロー。香りは、青りんごやりんごの果実のアロマと共に、際立つのが甘く官能的な菩提樹の香りです。それらの果実は花のアロマにそえられるように、ペトロール香もほんのりと感じられます。華やかで魅惑的な、リースリングの特徴をふんだんに詰め込んだ香りの印象です。口に含むと仄かな苦味を伴った厚みのある果実感を感じます。中盤から後半にかけて、キレのある酸が全体を端正にまとめ上げています。
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