香りを攻略する
香りを攻略するために
ソムリエ・ワインエキスパートの二次試験において最大の難関は、ワインの香りの表現です。
二次試験では、まずワインの香りの第一印象を答え、その後選択肢に挙げられているワインの香りを表現するのに使用される様々な物質の中から、そのワインの香りを代表すると思われるいくつかの物質を選択します。そして最後にまとめとして、そのワインの香りを総括します。
香りのカテゴリは、外観や味わい、総評に比べ得点比率が高いため、香りの部分できちんと得点を重ねることが二次試験合格のためには必須になってきます。
二次試験のワインの香りで高得点を得るためには、以下の二つのテイスティング能力が必要です。
- 品種や産地ごとのワインの香りの差を正しく捉える能力
- ワインの香りを代表すると思われる香り物質を正しく選択する能力
これら二つの能力を身につけるためにはそれなりの知識や経験が必要であり、一朝一夕で身につけられるものではありません。
そして間違った勉強法を行っていると、これらのテイスティング能力はいつまで経っても身につけることはできません。
つまり、ブラインドテイスティング上達のためには、まずどうやってテイスティングの勉強をしたらよいかという勉強法を知ることが重要なのです。
このページでは、ソムリエ・ワインエキスパート二次試験の香りできちんと得点するため自分が実践してきた、そして多くの人が実践してきたであろう勉強法のアウトラインを紹介します。
香りの勉強法
ソムリエ・ワインエキスパート二次試験の香りで得点を重ねるために必要な能力を身につけるためのステップは、大まかに分けて以下の3つに集約できます。
- 香りを覚える
- 香りを結びつける
- ブランドテイスティングで実践
一見単純な流れに見えるかもしれませんが、この3つのステップを愚直に踏み、必要に応じて繰り返すことによって、テイスティング能力は着実に身についてゆくはずです。
これらのステップを一つずつ説明していきます。
香りを覚える
ワインのテイスティングを行う上で、ワインそのものやワイン以外の様々な物質の香りを覚えることは必須です。
ワインの香りを覚える
まず、ワインの品種や産地ごとの香りを覚えます。
リースリングはどんな香り、ソーヴィニヨン・ブランはどんな香り、などと大雑把に品種独自の香りを覚えることが重要です。品種ごとにこんなに違う香りがするんだな、この品種とこの品種の香りは似てるななどと、品種ごとの香りを比較し、香りに全体像を掴むことに徹します。
また、同じ品種でも生産国や産地の違いによってワインの香りに違いが生まれます。生産国や産地の違うワイン同士を比較し、香りの違いをざっくりと知ることも重要です。
自分の中に漠然としたワインの香りの大きなスケッチブックさえ作ってしまえば、細かな知識や表現は自然と身についてゆきます。
また、熟れた表現でなくてもよいので、テイスティングしたワインを自分の言葉でざっくりと言語化してみるとなおよいです。
このワインはこんなフルーツの香りがした、形容詞で表現するとこんな感じだ、などと自分の知覚経験を言語化し蓄積するのは、テイスティングを行うときの自分だけのかけがえのない目安になります。
実は、自分の知覚経験、特に嗅覚や味覚の経験を言語化すると言う作業は、とても大変な作業なのです。
よく、嗅いだことのある香りに何の香りか思い出せないという経験をしたことがある方は多いと思います。
実はこれは一般的によく知られている現象で、嗅覚経験を言語化するのは視覚経験を言語化するよりはるかに難しいことが知られています。
よく嗅ぎ慣れた香りを被験者に嗅がせ、何の香りかを当てさせる実験が行われましたが、なんと半数以上の人は嗅いだ香りを何の香りか識別することができませんでした。同時に行われた視覚での識別実験ではほぼ100%の正答率だったことに比べると、人間の嗅覚と記憶を結びつける能力の乏しさを思い知ることができると思います。
嗅覚を言語化するというのは難しい作業ではありますが、トレーニングを踏めば着実に身につけることができる能力です。
普段からこの香りは何の香りかと考える習慣をつけることが、テイスティング力向上の近道であることは間違いありません。
ワインの表現に使われる香り物質の香りを覚える
また、ワインの表現によく使われる物質やその香りを覚えることも重要です。
ワインのテイスティングにおいて、ワインの香りは主に直喩で表現されます。これは、様々な香り物質を引き合いに出し、それらでワインの香りを組み立てると言う作業です。香り物質を知らなければ、ワインの表現にその物質を使うことができず、自然とワインの表現の幅が狭くなってしまいます。
ワインのテイスティングを行うためには、ワインそのものの香りを覚えることも重要ですが、ワインの香りを表現する比喩物質の香りを覚え、テイスティングのボキャブラリーを増やすことも非常に重要になってきます。
人は、言語化できない違いを認識することはできません。
有名な例ですが、アフリカのとある民族は"青色"を表す言語を持っていないため青色と緑色の区別がつかないことが知られています。私たちは、"青色"と"緑色"という言葉を持っているためそれぞれの色の違いを認識できますが、その民族のように色の違いを言語化できていないとそれらの違いを認識することができないのです。
これはワインテイスティングにおいても同じです。
テイスティングのボキャブラリーを増やすということは、ワインごとの微妙な違いを捉えられるようになるということです。逆に言うと、テイスティングのボキャブラリーが乏しいと、ワインの香りの違いを認識することができないということです。
ワインごとの細かな香り違いを認識するには、まず香りのボキャブラリーを増やしてみることを心がけましょう。
さて、無数にある香り物質の香りをどう効率的に覚えていくのでしょう。
一番手っ取り早いのが、アロマキットを使用することです。
アロマキットとは、赤ワインや白ワインから感じられる様々な香り物質を集めたワインテイスティング用教材です。予めよく用いられる香り物質が揃っているので、自分でアロマオイルなどを揃える必要がないため、手軽にテイスティングの練習ができます。二次試験で出てくる香り物質の香りを覚えられず苦戦している方は、こちらで勉強するのも一つの手です。
香りを結びつける
香りを一通り覚えたら、次は香りを結びつける作業に入ります。これは主に知識をインプットする作業です。
どのワインにどの表現が使われるのかを知る
現代のワインテイスティング文化の風潮を見ていると、このワインにはこの香り物質を使う、という暗黙のルールが存在しているように見えます。
この広く流布している潜在的な規則によって、私たちはワインの細かな違いを表現でき、また理解することができます。逆にこのルールから外れる表現をしてしまうと、他者とのワインの知覚経験のコミュニケーションが取れなくなってしまうのです。
そのため、より客観的なテイスティングコメントをしようと思ったら、ワイン業界(ソムリエ・ワインエキスパート試験を受ける方はソムリエ協会)が決めたワイン表現のルールを知り、表現方法をそれに寄せてゆく必要があります。
このサイトではこれから、ワイン業界で広く使用されている表現のルールを紹介していこうと思います。
ワインの香りの由来を知る
なぜこのワインからはこの香りがするのか、なぜこのワインにはこの表現が使われるのか、というワインの香りの由来を知ることも重要です。
マロラクティック発酵を行ったシャルドネにはバターの香りが感じられ、シラーには黒胡椒の香りが感じられるのには、きちんとした理由があります。
ワインの香りの背景にある理論を学ぶことにより、ワインと香り物質の結びつけが単なる暗記ではなく体型だった理論として身に付けることができ、香りの表現をよりスムーズにより正確に行えるようになります。
しかし残念なことに、このような香りの由来を体系的に教えられる人は少ないのが現状です。
このサイトでは、ワインから感じられる様々な香りの由来にもフォーカスして解説していこうと思います。
ブラインドテイスティングで実践
最後に、ブラインドテイスティングでワインの香りをとる練習をします。
今まで身につけてきた香りの知識を、ワインのテイスティングで実践しテイスティング能力を身に着けます。
ブラインドでテイスティングするということ
香りを取る上で重要なのは、必ずブラインドで香りをとるということです。
品種や産地を知った状態で香りをとってしまうと、どうしてもこの品種からはこの香りがするはずだという先入観に支配されてしまいます。
しかしその先入観に頼ってしまうと、ワインに内在する微妙な香りの差に気づけなくなってしまいます。ワインの香りをとる練習は、極力ブラインドでバイアスのない状態で行うことが望ましいです。
ワインの種類に基づくテイスティングコメントではなく、そのワインそのものに基づくテイスティングコメントを心がけるべきです。
失敗を繰り返す
最初からブラインドで香りを正確に取ることができる人はいません。
重要なのは、失敗をそのまま放置しないことです。
ブラインドで香りを取ることができなかったら、なぜ香りをとることができなかったかの原因をきちんと見極めます。
知っている香りなのに嗅ぎ分けられなかったのか、そもそも知らない香りなのか。
もし嗅ぎ分けられなかったのなら、ブラインドテイスティングを繰り返し身に付けなければなりません。その他にも、なぜこの品種からはこの香りがするのかなどの香りの由来を調べることもテイスティング力向上の手助けになります。
また、そもそも知らない香りだった場合は、その香りを覚えなければなりません。地球上にワインは星の数ほど存在します。見知った品種でも、産地や生産者によって全く異なる香りを呈することも珍しくありません。これまで経験したことのない香りを楽しみ、都度覚えていくことが大切です。
以上が、ソムリエ・ワインエキスパート二次試験のために自分が行ってきた、そして恐らく多くの方が実践してきた勉強方法です。
個々のステップの細かい説明はまた別の機会に投稿しようと思います。
今回は概念の解説に徹してしまいましたが、これから二次試験を受ける方、テイスティングをどう勉強したらよいのか悩んでいる方の役に少しでも立てると幸いです。
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